[書評]「バラと痛恨の日々」(中公文庫)有馬稲子

バラと痛恨の日々


予想外の内容だ。本書を読むまで、宝塚出身のお嬢さん育ちの女優としか思っていなかった。これは全くの認識不足。かなりの修羅場をくぐり抜けて来た苦労人なのだ。不幸な生い立ちと少女時代。宝塚でデビューしてからの親兄弟からの過分な金銭的援助の依頼や二度にわたる離婚。結婚以前に、ある映画監督との不倫と堕胎。

『東京暮色』や『彼岸花』に出演していた頃が、修羅場の時期でもあったのだ。

読みすすみながら、「おいおい、なんだい、この不幸は!」と呟く。まるで林芙美子の『放浪記』じゃあないか。(あそこまで、悲惨ではないが…)

舞台女優としての凄みは、そんな人生経験を経て生まれたものなのだろう。

ただのきれいな女優さんとは大違いなのだ。