『原爆の子』'52
新藤兼人/監督&脚本
出演:乙羽信子、滝沢修、北林谷栄、宇野重吉、奈良岡朋子、殿山泰司
たった一発の原爆により、家族が生活が人生が一変する。
国家の大義の前には、一個人の夢や幸福など芥子粒のようなものなのだろうか?
安直に核武装を主張する軽薄さに飽きれる。
机上の作戦であれこれ指令を出せるのは、この国の司令官クラスの軍人の特色なのだろうか?
空幕長だった田母神某の著作を通して、氏の主張には机上のもしくはソファーの上で考えたものとしてしか、感じられなかった。
核の廃絶を唱えていたら平和が来るなんて思ってもいない。
だからと言って、核武装の有効性をさも平和を願って主張するというのにも、眉にツバをつけてからでなければ聞けないなあ(苦笑)
それはともかく、映画のほうの話に移る。
主演は、乙羽信子であるが、ある意味、狂言回しのような役回り。
広島の町に住む人は、原爆の惨禍から生き延びたとしても、いろいろな悲しみを背負っている。
ラストで、空から飛行機の爆音が。
被爆者は、一瞬身体が強張る。
被爆体験を覚えていない子どもは、無邪気にはしゃぐ。
この対比を単なる映画の効果的なシーンと捉えるのではなく、実際に被爆を体験していない人びとに向けられたメッセージのように感じた。
映画鑑賞後、原作を読んだときの衝撃を思い出す。
子どもの稚拙な表現による記述が、原爆の悲劇を一層生々しく伝える。
「自虐だ」「サヨクだ」と戯言を声高に叫ぶ連中もいる。
しかし、被爆者の静かな声に耳を傾けたら、そんなもの吹き飛んでしまう。