『山の郵便配達』'99  霍建起(フォ・ジェンチイ)/監督  ポン・ヂエンミン/原作 ス・ウ/脚本

山の郵便配達 [DVD]

tougyouさんringoさん推薦の作品。これまで観た映画の中でも屈指の名作と感じた。


原題は『那山、那人、那狗』。直訳すると『あの山、あの人、あの犬』ということか。特殊な話ではなく、中国山間部のよくいる平凡な人々の話という意味合いだろうか。まあ、そんなつまらない詮索が吹き飛んでしまうくらいの作品だ。


「家族の絆」という普遍的なテーマを中心に据え、それを無駄な言葉を廃して父子のやりとりから描いたからこそ、胸にグッと迫る作品になったのだろう。

自然が豊かな湖南省で創作活動を続けるポン・ヂエンミンの短編小説『那山 那人 那狗(あの山、あの人、あの犬)』を映画化。大自然を背景に父と息子、妻と母の立場を通して家族の在り方を描き、1999年中国金鶏賞最優秀作品賞ほか多数の賞を受賞した。
山の郵便配達(1999) - goo 映画

<あらすじ>は、以下のようなもの。

1980年代初頭、中国湖南省に、現代でも交通手段のない険しい山岳地帯を仕事場とする、年老いた一人の郵便配達人がいた。送る人、受け取る人の思いを紡ぐ手紙を、大きなリュックに詰め込んで、何日もかけて配達する。愛犬“次郎坊”とともに、山から谷へ、川を横切り、再び山へ…体に重いリュックを食い込ませて、彼は歩きつづける。
 そして今日―。退職を目前にした最後の配達に、年若い一人息子を連れて行く。妻と息子へのいたわりの言葉を心に秘めて、仕事を息子に引き継ぐために。二人は折に触れ、山郷に住む人々の一途な心情と素朴さを肌で感じ、少数民族の美しい少女との出逢い(かつて父も母と同じように巡り会い、結婚したのだ…)を通して、しだいに打ち解け、心を通わせていく。
 緑濃い、美しい大自然の中で繰り広げられる、この特別な<旅>は、父、母、息子…そして家族の“絆”を取り戻す旅でもあった。
第9回HAGI世界映画芸術祭「アジア・シネマ・ウィーク III」より

このような映画を観ると、国や民族や言語が違っても人間としての根っこにある部分の心情には、共通するものがあるのだな、と感じる。


父親役のトン・ルゥジュンは寡黙だけど、口には出さない愛情で息子を見守っている。
息子役のリィウ・イェも負けてはいない。
いままで馴染めなかった父親に尊敬と愛情を抱く。何気ない動作で演じる。
言葉に表してしまうと「陳腐」なことでも、このようにすると観るものに感動を与えずにはいられない。


登場シーンはそれほど多くはないものの、母親役のジャオ・シィウリや山里の娘役のチェン・ハオも素晴らしい。
とても魅力的に描かれている。


“次郎坊”−「次男」の意−という狗の名演技には、感心。映画にふくらみを与える役割を果たしている。
よく訓練されてるなあ。まあ、元々、頭がいいのだろう。
ラストシーンで、家に残る父親を振り返りながら、配達に向かう息子を追う“次郎坊”。
時の移り変わりを自然に示し、かつ“次郎坊”の父親に対する絆を感じ、ちょいと感動する場面だ。


また、映画終盤でこれからは家にいる父親に対して、息子が事細かに村の人間関係についての説明をする。村の幹部の腐敗が既に始まっていること、そして、それを指摘しない方がいいこと。
それまで登場した山郷の人々と対比しているようで、興味深い。


この作品は、文革後、数年を経た湖南省が舞台である。どんな時代・地域・体制であっても、「(清濁含めて)人間は人間であること」を暗示しているような気がした。(あれ以上やると、当局から圧力があるか?)


ともかく、国というちっぽけな枠組みを越えた名作である。
中国では、この年、チャン・イーモウの『あの子を探して』が賞レースの本命ということだったが、蓋を開けてみると、金鶏賞作品賞と主演男優賞の主要な賞は、この作品に。
脚本のス・ウは監督夫人でもある。撮影は、ジャオ・レイ。音楽はワン・シャオファン。
中国の俊英スタッフが結集したそうだ。


『あの子を探して』は録画したままにしてあるので、これも近日中に鑑賞しよう。