『濹東綺譚』’60 豊田四郎/監督 永井荷風/原作 八住利雄/脚色

墨東綺譚 [DVD]

永井荷風の原作を読んだ影響で、本作を鑑賞。レンタル店では見かけないが、府立図書館の視聴覚室に収蔵されていた。
順番としては、新藤兼人・監督『濹東綺譚』→永井荷風・著『濹東綺譚』→豊田四郎・監督『濹東綺譚』
という具合でこの作品とかかわったことになる。


東京映画が、永井荷風没後1周年を記念して製作。五社協定の例外として大映山本富士子を主人公・お雪に起用。
とはいえ、原作とこの映画、まったく趣が違う。まあ、原作自体が映画向きの内容ではないのである。


原作は、失われつつある東京の姿を求めて散策するという趣の作品だ。
本作は、原作の主人公・小説家の大江匡を狂言回しのような役向きに置き、小説内小説の主人公・種田順平とお雪との話に変えている。


私娼街・玉の井で、中学教師・種田(芥川)と、気立てのいい娼婦・お雪(山本)が夕立の最中に出会う。
お互いに問題を抱える二人が、新しい所帯を夢見る。しかし、現実の壁は厚い。
二人の関係は、お雪の病とともに終わる。


原作を映画用に変える自体は、問題ないし、当然のことといえよう。
だが、作品自体の出来は、どうもいまひとつで、単なる、所帯持ちの男と苦界に身をやつす女の悲恋に終始している。
どうも、山本富士子の美しさのみが傑出している映画に仕上がっているような……。


やはり、この監督は『夫婦善哉』を観ないと、その真価はわからないかな、と思った(苦笑)