『心の旅路』'42 マーヴィン・ルロイ/監督 ジェームズ・ヒューストン/原作 ローディン・ウェスト、ゲオルク・フレーシェル&アーサー・ウィンペリス/脚本

心の旅路 特別版 [DVD]

tougyouさん、推薦の作品。こちらもご覧ください。
『哀愁』を撮ったマービィン・ルロイのもう一つの代表作を鑑賞した。
名作の誉れが高いだけあって、設定に現代では考えられない古めかしさはあるものの、2時間以上を一気に見せてしまう作品に仕上がっている。

<あらすじ>
1918年、中部英国メイブリッジの精神病院に記憶を失った病兵スミスがいた。11月11日休戦の日、スミスは病院を逃げ出しメイブリッジの町に迷い出て、旅まわりのショーの踊り子ポーラと相知る。
ポーラはスミスの病気を治してやるために、ショーをやめて、デヴォンの田舎に落ち着く。
スミスは記憶こそ回復しないが、健康を取りもどしたので、今は相愛のポーラと結婚し、一子をもうける。


ある日スミスは寄稿している新聞社の呼び出しでリヴァプールへ行くが、雨の街路に滑って頭を打つ。そのために彼の記憶はこつ然とよみがえったがフランス戦線以来現在までの3年間の記憶を失った。
彼は不審に思いつつも、自分すなわちチャールズ・レイナーの家、サレイのランドム・ホールへ帰る。
ちょうど父の葬儀のあった晩で、翌日父の遺言状が開封され、チャールズはランドム・ホールの主人となる。
やがて兄に代わってレイナー商会主となり、実業界に雄飛する。


この間にポーラは子供を失い、スミスがレイナーであることを知り、女秘書となって仕える。
レイナーは秘書マーガレットがポーラであり、自分の妻であることが思い出せない。
スミスとポーラの愛の家の鍵をレイナーが常時持っているのでポーラは希望をつなぐ。


レイナーは国会議員となり、マーガレットに名だけの妻になってくれと頼む。記憶の回復を待つ彼女はそれも承知する。
しかし、ついに絶望かと観念した彼女は別居を申し出て、南米へ赴くこととなり、路すがらデヴォンの愛の家を訪れる。その時レイナーはブリッジへ所用で行き、そこで記憶を少しずつ回復し、かの田舎の愛の家へとたどり着く。例の鍵はその鍵であった。そしてそこにポーラが立っていた。
心の旅路(1942) - goo 映画


この作品の最大の魅力は、グリア・ガースンであろう。
旅芸人の役で、舞台に華麗に登場し歌い踊るさまも、キリッとした表情で電話を取るさまも、とても綺麗で素敵だ。


ウィキペディアWikipedia)』のマーヴィン・ルロイの項目で、グリア・ガースン

彼女が持つ良妻賢母のイメージを全面に押し出して、戦時下のアメリカ国民の心を掴み、映画はいずれも大ヒットした。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

としているが、本作を見る限りでは、知的で有能な女性。
社長秘書としても国会議員婦人としても、申し分ない。
恋人や夫が、名家の出身であることは『哀愁』と同様だが、二人の女性主人公の性格や生き方は対照的だ。


結婚生活の記憶を失った夫を忘れることはできないが、男に頼る生き方をしていない。失意のうちに南米に渡ろうとするのもその表れだ。
そのあたりの芯の強さが、グリア・ガースンの知的な表情とマッチしている。


また、だからこそラストシーンが感動的なのだろう。(ねえ、ringoさん<笑>)


戦争の傷痍兵を精神病院に収容して、記憶喪失なのに戦争で精神を病んでいる、と決め付け。
本人が何を訴えても病院に押し込めておく、という非人間的な国家あり方をさらりと1942年当時に描ける点ではアメリカの懐の深さを感じるなあ。
当時のアメリカ映画には、日本同様戦意高揚の作品や、「合衆国、バンザイ!」の作品も当然あるのだが……。
同時代の邦画では、考えられない。

グリア・ガースン、素敵です!