『青春デンデケデケデケ』芦原すなお(初出、河出書房新社、<後に、角川文庫>)

青春デンデケデケデケ


大林宣彦により映画化され好評を博したものの原作。

全体の章立ては以下の通り。
1 It's like thunder,lightnin'!(雷はんじゃ、稲妻じゃ!)
2 Strummin' my pain with his fingers(わしの胸のせつなさをあいつはちろちろ爪弾いて)
3 Let's have a party!(どんちゃかやろうで!)
4 There ain't no cure for the summertime blues !(夏のしんどさ、どっちゃこっちゃならん!)
5 Girl in love,dressed in white(白いべべ着た恋する乙女)
6 (デンデケデケデケ〜!)
7 Stop the music,before she breaks my heart in two(音楽やめーっ、心臓が破裂してまうが)
8 Oh,the locusts sang!(がいこ、がいこの蝉の声)
9 Goodness,gracious,great balls of fire!(ありゃ、りゃんりゃんの、ごっつい火の玉!)
10 And the band begins to play!(いよいよわしらのデビューです!)
11 What am I,what am I supposed to do?(あー、どうしょうに、どうしょうに?)
12 It's gotta be Rock'n' Roll Music!(やーっぱりロックでなけらいかん!)
13 I wish,I wish,I wish in vain...(願うて詮ないことじゃけど……)

カンのいい方なら、気付くかもしれない。6を除いて、すべて英語の歌詞。
特に10は「イエロー・サブマリン」11は「アンナ」とビートルズ・ナンバー。何となくうれしい。
12も「Rock And Rock Music」なので、これもビートルズゆかりの曲だ。

物語中に、'60年代ロックがちりばめられている。恥ずかしながら知らない歌手やバンドもちらほら。ビートルズローリングストーンズ、ベンチャーズ、シャドウズ、アニマルズ、ピーター&ゴードンetc. 40代後半以降の方なら、懐かしさを覚えること確実だろう。

本文を引用すると

ポップスは所詮ポップスに過ぎない、とも考えていた。音楽の本当の楽しみはクラシック音楽にこそ求めるべきで、ポップスは若いうちは楽しめても、大人になれば飽きてしまう。その点クラシックは80歳になっても楽しめる。

という考えを「愚劣な俗物根性」と葬り去り、「ロックの道を志し」て、メンバーを集め、バンドを作る。 そして、バイトをして楽器を購入。練習を重ね、3年の学園祭でのライブ成功。祭りの後の「ぼく」の喪失感と友情による癒し。そんな、お話だ。

マックもミス・ドもTVゲームもパソコンもCDもDVDも携帯もない、当然だが、コンビニもない。そんな時代の青春物語。

20代以下の方から、「不便だ」「服装がダサイ」「髪型がない」と声が聞こえてきそうだ。
でもボクには、ないからこそ感じる「豊かさ」を受け取れるなあ。

この小説には「生きることの不条理」とか「人間の本源的生への問いかけ」なんてものはない。形而下の問題に終始している。

主人公「ぼく」が男子学生の目から、奇をてらわずに語られているところに、この作品のチャームポイントがある。 誰もが通過する10代後半の多感な時期を、きれい事に終始せず、悲観的にもならず、楽しく、でもやや感傷的にもなる。 だから、ボクは親近感を感じる。

「ぼく」をとりまく人物たちもよく描かれている。「合田富士男」の年齢に似合わぬ世間慣れした振る舞い。「白井清一」のギター小僧ぶり。「岡下巧」の純情なタコ顔。「谷口静夫」のメカおたく。  高校時代の友人の誰かにあてはまりそうなキャラクターばかりだ。ここにも、この作品を魅力あるものにしている一因があるのではないだろうか。

最後に、映画との比較すると−小説と映画では、文法が異なるので単純比較はナンセンスだが−個人的には小説に軍配があがる。