書評

『歩いても 歩いても』(幻冬舎)是枝裕和

同名映画の原作である。流石に原作者と映画監督が、同じ人だと(当然のことながら)小説も映画も同じ空気が流れている。 以前、TV番組で是枝氏自身が、この小説の主人公の母親役は樹木希林でアテ書きしていたとのこと。 どうりで映画での樹木希林は、例の…

『田中希代子―夜明けのピアニスト―』(ショパン¥1575)荻谷由喜子

田中希代子、正直に告白すると、初めて耳にしたピアニストでした。 彼女の師匠・安川加壽子は知っていたし、彼女の弟子・田部京子のアルバムは所有しているし、彼女が好きだったピアニストのクララ・ハスキルはボクも昔から好きで、何枚もアルバムを所有して…

『新しいもの古いもの』(講談社文庫)池波正太郎

[rakuten:book:12105575:image] 久しぶりに池波正太郎の未読のエッセイ集を読む。既に物故されて早いもので15年をとうにすぎている。 20代からのファンとしては、新作が読めないことは淋しい限りではある。 しかし、池波正太郎の書き残した膨大な小説・…

『雪の断章』(ブッキング) 佐々木丸美

相米慎二監督の同名作品の原作。映画のほうは、当時、新人アイドルだった斉藤由貴が主人公を演じる。 映画を先に観たので、すらすらと読めたのであるが、文体は主人公・飛鳥が一人称で語る部分が多い。 体裁は純愛小説にミステリーのテイストを加味したもの…

『鞍馬天狗のおじさんは−聞書アラカン一代−』(ちくま文庫)竹中労

鞍馬天狗のおじさんは (ちくま文庫)これまで単なる時代劇スターとしてしか認識していなかった。 嵐寛寿郎は、役者としてだけではなく人間としても魅力に富んだ人であることを痛感。 それに反骨の人だ。 世間への立ち回りが苦手というか、面度くさがり屋だ。…

『濹東綺譚』(新潮文庫)永井荷風

ぼく東綺譚 (新潮文庫) 3月の上京中に読了したもの。感想が遅れたが、今ここに揚げておく。本書を読むきっかけは、この作品を新藤兼人が映画化したものを鑑賞したからである。 荷風役を演じた津川雅彦が素晴らしかったので、原作にも興味を抱き、読んだ次第…

『余命三ヶ月のラブレター』(幻冬舎)鈴木ヒロミツ

鈴木ヒロミツ氏が、永眠されたと聞いたのは、つい最近のことのように思っていたが、もう一年になる。 本書は、鈴木氏の死後出版されたもので、モップス以降の人生の回想と家族に宛てたラブレターからなる。 本書は、肝臓癌で余命三ヶ月の告知受け、その死の…

『冒険にでよう』(岩波ジュニア新書)椎名誠

久々の読んだ椎名誠の著作である。思えば、この著者との出会いは、かれこれ四半世紀前に遡る。 確か、修士論文の作成のため半年以上、読書できなかった。 これだけの期間、本を読まないで過ごしてきたことはなかったので、かなりの読書飢餓?状態にあったこ…

『その日の前に』(文藝春秋)重松清

先日読んだ同じ作者の『口笛吹いて』に心を打たれたので、図書館から貸し出してきた。 ネットで調べてみると、かなりの数の方が「感動した」とか「涙なしには読めなかった」とある。 ボクはというと、そんな書評を読む前に、この作品集の中の以下の表題作を…

『口笛吹いて』(文春文庫) 重松清

また一人、好きな作家ができた。これまで『定年ゴジラ』のTVドラマ化で名のみ知っていただけの作家。 他の方のブログがきっかけとなり、出会うことができた。 非常に男の心理を心得ている作家だ。それも、触れて欲しくない部分や忘れてしまいたい事を思い出…

『夏の庭』(新潮文庫)湯本香樹実

相米慎二監督の同名映画の原作。 児童文学にカテゴライズされていることでもわかるように、3人の小学6年生のひと夏の経験での心の成長を描いている。 そのテーマは、「生と死」だろう。孤独な独居老人との少し風変わりな交流から、「生きる」ことの意味を…

『成瀬巳喜男と映画の中の女優たち』(ぴあ)

成瀬巳喜男監督生誕100年記念。成瀬映画は、女優たちの映画である。高峰秀子、原節子、山田五十鈴ら、名匠の名作を彩った日本映画の名花たち39人。蔵出しスチール400枚、作品一覧、解説、ポスター等で綴る名匠の世界。 上記の記事にも書いた本です。…

『食卓の情景』(新潮文庫)池波正太郎

再登場の本です(笑) 振り返ってみると、この20年の間に最もたくさんくり返し読みました、この本。 「食」のことだけでなく、「映画」「演劇」や戦前の風俗といった、内容が多岐にわたっている。よって、グルメ・ガイドブックというより、すぐれた文化評論…

「文庫のクチコミランキング」

セブンアンドワイが文庫のクチコミランキングという企画を展開している。 「知らず知らずのうちに何度も読み返してしまう。」とか「あまり有名ではないけれど、この本は隠れた名作。」 こんな感じのうたい文句で、お気に入りの一冊を投票してする、というも…

書店を開くのなら

あなたのオリジナル書店を開店しよう!「みんなの書店」セブンアンドワイはとても楽しいアイデアである。 ネットで本やCDを検索していて、以前検索したものを再度探すときに困るときがある。 セブンアンドワイの「みんなの書店」は、ユーザーがお気に入りの…

『戦犯 新聞記者が語りつぐ戦争8』(角川文庫・絶版)読売新聞大阪社会部

戦犯については、従来、まずA級のそれが頭に浮かぶ。B級C級のそれに関しては、かなり過酷な裁判で処刑された人が多いと認識していた。でも、それなりに現地で酷いことしてきたんだし、勝者が敗者を裁くという理不尽な点はあるものの、仕方ないのだろうな、と…

『敗戦前後の日本人』(朝日文庫)保阪正康 <'94年8月 読了>

毎年、この時期には先の戦争に関係する著作を最低1冊は読むように自分に課している。本年は、表題に揚げた書籍ではなく、『戦犯−記者が語りつぐ戦争8−』(角川文庫 読売新聞大阪社会部)を読んでいる。読了寸前なので、感想は次回に。 今回は、'94年8月に…

『君美わしく−戦後日本映画女優讃−』(文芸春秋)川本三郎

副題にあるように、戦後スクリーンを飾った女優たちへのインタビューである。 インタビュアーに人を得ると面白くなり、そうでないと単なる「ヨイショ本」となってしまう。 本書は、著者が無類の映画好きで、対象となった女優たちの作品に精通しているせいか…

『食卓の情景』(新潮文庫)池波正太郎

昨日というかその前の深夜に、カレーを作るゾーと思い立った後に、部屋で読んだ本。 もう何回読み返したのか覚えていない。文庫本の初版を購入。発刊は'80年4月なので、その年の内には読んでいたのだろう。(日記を付ける習慣がなかったので、記憶を確かめ…

『ま・く・ら』(講談社文庫)柳家小三治

落語にはとんと不案内だが、この師匠には昔から親近感を覚えている。高校時代、ラジオのクラシック音楽番組にゲスト出演して、「あたしは、シャルル・ミュンシュが好きです」と言って、ブラームスの1番(ミュンシュが最晩年にパリ管を振ったレコード)をリク…

「知られざる渥美清」(廣済堂文庫)大下英治

500ページ以上の長編ではあったが、一気に読めた。全4章。渥美清のフランス座以降の役者人生とその交友記を中心にドキュメント・ノベル形式で書かれている。 渥美清のスクリーンから伺いしれない素顔を数々の関係者の証言を通して描いている。しかし、そ…

『藝人という生き方−渥美清のことなど−』(文春文庫) 矢野誠一

著者は、演劇・演藝評論家。東京人('35年生まれ)の一つの典型のように、学生時代から浅草通いが始まったそうだ。しかし、浅草時代の「渥美清」には馴染みがない、とのこと。それは、「私には渥美清の印象がまるで残されていない」(p.20)というところからも…

腰が痛いと、するのは読書

腰が痛いと、外出もままならない。仕方がなくでもないが、読み差しの本をいろいろと読破。 『さらば友よ』(ザ・マサダ)関敬六 著者は、昨年没。tougyouさんの紹介されていたのがきっかけで購入。 渥美清との出会いから長い交遊と秘話を紹介。 渥美の結核入…

「ぼくは痴漢じゃない!」(新潮文庫)鈴木建夫

[rakuten:book:11275683:detail] 他人ごとじゃあない! 満員電車に揺られる生活でないことに感謝してしまうなあ〜 高校時代、通学時満員電車に揺られて都心まで通っていた。正直、人間の乗り物ではないと思う。「大人になったら、こんな電車乗りたくない」と…

「リスボアを見た女」(新潮文庫)阿刀田高

リスボアを見た女 (新潮文庫) 16世紀に我が国に鉄砲が伝来されたことは中学生の教科書にも載っている。教科書的には、「1543年、漂着したポルトガル人により鉄砲伝来」となっている。 【『真説 鉄砲伝来』 (平凡社新書) 宇田川 武久】 では、学術的に…

「東京名画座グラフィティ」田沢竜次

[rakuten:book:11905331:detail] 以前、beatleさんのブログあの町この町に名画座があった - 旧・かぶとむし日記で紹介されていたものです。 街にレンタル・ビデオ屋と家庭にビデオが、普及する以前に映画の魅力に取り憑かれた人なら、共感をもって読むことが…

「雨にぬれても」(幻冬社アウトロー文庫)上原隆

[rakuten:book:11367199:image] 「友がみな我よりえらく見える日は」「喜びは悲しみのあとに」に続いての第3作目。期待に違わず、著名人も無名人も同じ目線から描いている。ほのぼのとした心の温まる話から、ちょっと切なくなる話まで収録。 書く対象に対し…

「銀幕の東京」(中公新書) 川本三郎

以前、beatleさんがブログ(「銀幕の東京」の検索結果 - 旧・かぶとむし日記)で紹介されていた書籍である。面白い。昔の日本映画や東京を舞台にした小説が好きか、または東京に住んでいたことのあるものなら、楽しめる読み物である。見方を変えると、(主に、…

おれがあいつであいつがおれで(理論社)山中恒

大林宣彦監督の出世作・映画『転校生』の原作。当然、小説と映画とは設定はことなるものの、そのエッセンスは映画にも十分受け継がれている。 架空の森野市を舞台に小学6年生の「斉藤一夫」と「斉藤一美」の心が入れ替わってしまうことから、おこるどたばた…

『火天の城』(文藝春秋)山本兼一<'04年第11回松本清張賞受賞作>

歴史小説・時代小説は、幾多の大家がいる。そのため、大衆受けする題材で採りあげられていないものはほとんどない。しかし、著者は視点を変え、戦国の世を権力者や武将のそれではなく、彼らに仕えていた職人−本書では、大工−の目を通して、描いている。新鮮…