『夏の庭』(新潮文庫)湯本香樹実

夏の庭20刷改版 The friends (新潮文庫) [ 湯本香樹実 ]


相米慎二監督の同名映画の原作。
児童文学にカテゴライズされていることでもわかるように、3人の小学6年生のひと夏の経験での心の成長を描いている。
そのテーマは、「生と死」だろう。孤独な独居老人との少し風変わりな交流から、「生きる」ことの意味を考えていく。


仕事柄、この年代の少年とは関わり合いを持つことが多い。そのせいか、非常によくできた作品と感じる。
実際に主人公達のモデルがいたかどうかは確かめようもない。しかし、何処の街にいてもおかしくない、ごくありふれた少年達だ。そして、それぞれが平凡でありながら家庭に問題を抱えている。
そんな彼らが、正体不明の独居老人を監視するところから物語は展開。


「人」と「人」とがうち解け、心を開いていく。それは、表面的な言葉ではなく「誠実さ」に由来するものだ。老人はこの夏に死ぬ。少年達に、「生きる」ことの楽しさや辛さを少し教えて。


読後に、何ともいろいろ考えさせてくれる作品だ。これを小中学生に独占させる手はない。
大人の読者の鑑賞にも、十二分に応えてくれる物語。
「児童文学=子供のための読み物」  こんな先入観をうち砕いてくれる作品だ。