『その日の前に』(文藝春秋)重松清

その日のまえに

先日読んだ同じ作者の『口笛吹いて』に心を打たれたので、図書館から貸し出してきた。
ネットで調べてみると、かなりの数の方が「感動した」とか「涙なしには読めなかった」とある。
ボクはというと、そんな書評を読む前に、この作品集の中の以下の表題作を目にする。


「朝日のあたる家」
「ヒア・カムズ・ザ・サン
これで、思わず貸し出しカウンターに向かいました(笑)
本書は以下の作品よりなる。
ひこうき雲
「朝日のあたる家」
潮騒
「ヒア・カム・ザ・サン
「その日の前に」
「その日」
「その日のあとで」


最初の作品から、ぐいぐいと引きつけられてしまう内容だ。
「生」と「死」。「逝く者」と「遺される者」。
日常の中に、「死」という非日常が突然、ずけずけと踏み込んでくる。
その力に敵しながらも、此岸から彼岸に向かう者たち。
娑婆世界に遺された者たちは、悲しみ・絶望し、そして日常生活の中で徐々にその感情が薄れていく。


「その日の前に」は、なんとも男としては辛い話だ。
余命幾ばくもない妻と、新婚当初過ごした街を訪れる。
しばし思い出に浸るも、残された時間は少ない。
何もできない無力感に、男は立ちつくす。


続く、「その日」「その日のあとで」は、続編。
どうしようもない空虚感。でも、生きているものには容赦なく時間が過ぎていく。


本書の白眉は、最後の3編「その日の前に」「その日」「その日のあとで」。
先の4編もここに収束されていく。
その手並みの見事さに、非凡な著者の筆力を感じる。


愛しい人、大切な人の死に、どう向かうのか、教えてはくれないが、考えさせてくれる作品集だ。