『神童』'07 萩生田宏治/監督 さそうあきら/原作 向井康介/脚本

神童 [DVD]


「日本初の本格クラシック映画が誕生!」と宣伝されてます。
クラシック音楽を真正面から捉えた作品。確かに、ウーーン。でもなあ……。
正直、いろいろと詰め込みすぎて、収集がつかなくなった感は否めない。


おそらく原作を読めば、いろいろと腑に落ちるところは出てくるのだろう。
でも、映画を見ているだけではどうも話がとびとびになっているような。

音大を目指して浪人中のワオこと菊名和音と、神童と呼ばれて育った13歳の天才ピアニスト・成瀬うたが出会う。このところ母親の目を盗んではレッスンをさぼってばかりのうたは、愚直なまでにピアノに打ち込むワオを気に入り、彼の実家である青果店に入り浸るようになる。うたの応援もあり、翌春、ワオは首席で合格し、今は亡きうたの父で音楽家だった光一郎を知る御子柴教授のレッスンを受けることになる。


萩生田宏治監督は優しい男を描くのがうまい。前作『帰郷』では西島秀俊が7歳の少女を守る決意をし、さそうあきら原作の傑作漫画を映画化した今回は、天才ゆえに苦悩する少女に寄り添う青年ワオを松山ケンイチが好演している。そして、たったひとりで不安や疑問を抱えながらも「大丈夫、あたしは音楽だから」と、凛々しくステージに立つ天才少女うたに扮し堂々の映画初主演を果たしたのは清涼感溢れる成海璃子。恋人でも兄妹でもない“音”で繋がる2人が並んで鍵盤に指を走らせる姿は音楽の幸せに満ちている。また、ベートヴェンやモーツァルトなどの名曲もさることながら、ハトリ・ミホによる主題歌「リプルソング」も心に響く美しさだ。
神童 - goo 映画

成海璃子は、好演している。中学生には、見えないほど大人びた表情が「神童」というのにピタリとはまっている。
松山ケンイチは、少々肩に力が入りすぎているような……。
また、八百屋のオヤジ役の柄本明の演技は、上手いの一言。登場時間は短いが、きっちり存在感を示している。
成瀬うたの母親役・手塚理美は、……。生意気言わせてもらうと、「ミスキャスト」。
生活苦に追われてるけど、天才を養育する必死さが、どうもボクには感じられなかった。
どうも顔の表情が乏しいような。


いくら何でも、モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番k.466」をリハなし、それも初見という設定には無理がある。
たとえ、「神童」であっても、あれはなあ……。
この曲は、モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも名曲の一つ。
そして、名演が多い。よりによって、あれはない。
いくら、お話だからといって、無茶しては感動に水を差すなあ。


最大の疑問は以下の点にある。
曲の演奏中、松山ケンイチ演じる和音が会場に入ってくる。
これは完全に「(クラシックの場合)マナー違反」という点。
そりゃ、子供のピアノの発表会なら許されるけど……。
演出だからといって、ルール無視はクラシック音楽の演奏会に対して変な「誤解」を生むのでは?


思った通り、萩生田宏治監督は、これまでクラシック音楽は「まったく聴いてなかった」http://www.cinematopics.com/cinema/topics/topics.php?number=1011 とのこと。
音楽プロデューサーの方が詳しい、と回答している。
ご本人は、(クラシック音楽に)詳しくなかったのが良かったと言ってはいるが……。←ボクはこの点が最大の問題ではないかと。


素材に対する接近の仕方を真似なくても良いから、周防正行監督のやり方を参考にしてよ、と拙いクラシックファンのボクは力説したい(笑)


また、先日とりあえずマンガ原作に目を通してみました。
やはり映画の長さに比して、原作のエピソードを詰め込みすぎ。
淀川・池波両氏の「映画は脚本」という言葉を痛感した次第。


この作品の唯一の魅力は、成海璃子の「現在」を見事に切り取ったところだろう。
とても透明感のある存在感。TVドラマにもいろいろ出演してるけど、消耗して欲しくないですね。


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