『あ、春』’98 相米慎二/監督 村上政彦・原作 中島丈博/脚本

あ、春 [VHS]

‘99年キネマ旬報日本映画第1位。
いまだにDVD化されていないので、VHSをレンタルして鑑賞。
本年正月の相米慎二特集では放映されなかったが、この作品も観たかったなあ。


主演は、佐藤浩市斉藤由貴である。
が、山崎努が映画全体をいい意味で印象の深いものにしている。圧倒的な存在感で、いい加減なダメ親父になりきっている。いやあ、見事です。

<あらすじ>
一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)は、ずっと自分は幼い時に 父親と死に別れたという母親の言葉を信じて生きてきた。


ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。ほとんど浮浪者としか見えないその 男・笹一(山崎努)を、にわかには父親だと信じられない紘。
だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。しかも、実家の母親に相談すると、笹一はどうしようもない男で、自分は彼を死んだものと思うようにしていたと言うではないか。
笹一が父親だと知った紘は、無碍に彼を追い出すわけにもいかず、同居 する妻の母親に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。
しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。


ついに堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマンに暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れてきてしまう。図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは、休まることがない。
そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の母・公代が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だ、と告白する。その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。


ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。病院の診断では、末期の肝硬変。笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。
しばらくして、ついに 紘の会社が倒産した。しかし、今の紘には、笹一のように強く生きていける自信がある。そしてその日、笹一が息を引き取った。紘は死に目に会うことは叶わなかったが、笹一のおなかに、彼がこっそり温めて孵化したチャボのひなを見つける。数日後、笹一の遺体を荼毘に付した紘たち家族は、彼の遺灰を故郷の海に撒くのだった。
あ、春(1998) - goo 映画

演出のやり方で、暗くて重い映画になるのだが、相米慎二はあくまでコメディーで物語を進めていく。
それが浮ついたものではなく映画全体にマッチしている。
人が「生きること」と同時に「死ぬこと」を否が応でも観ている者に、感じさせる出来上がりだ。


この頃までの斉藤由貴さんは、何ともかわいらしい魅力に溢れている。
現在は、……。えーーと。ノーコメントということで(苦笑)
佐藤浩市は悪くないけど、山崎努に完全に食われているような……。
『魚影の群れ』では、初々しい青年役を緒方拳を相手に好演してたんですが。
ちょうど俳優として難しい年齢だったのかなあ。最近の彼の充実振りを観ているので、そんなこと思いました。


笑福亭鶴瓶三浦友和三林京子が、いいスパイス役で映画にアクセントをつけている。