『歩いても 歩いても』(幻冬舎)是枝裕和

歩いても歩いても

同名映画の原作である。流石に原作者と映画監督が、同じ人だと(当然のことながら)小説も映画も同じ空気が流れている。
以前、TV番組で是枝氏自身が、この小説の主人公の母親役は樹木希林でアテ書きしていたとのこと。
どうりで映画での樹木希林は、例の賞を獲得した作品よりも生き生きして見えたわけだ。


映画をご覧になった方なら、おおよその筋はお分かりと思います。
小説の方は、主人公が7年前を回想しているという設定。(映画も同じだったか、少々自信がない<苦笑>)


神奈川県の久里浜に住む両親を姉と弟がそれぞれの家族と共に訪ねる。
15年前に海で亡くなった兄・純平の命日に実家に集うのが恒例だからだ。
そこでの一日半の物語である。
老夫婦の間、父息子の間、嫁姑の間、これらの関係が何もかもが円満というわけではない。
でも、それもよく考えれば、人生の雨風を通り過ぎてきた方ならば、大なり小なりは経験していることではないだろうか。


物語中、特に事件が起こるわけでもなく、いろいろな感情に綾なされながらも淡々と一日が過ぎ行く。
ある意味、凄く身近に感じる話だ。
主人公は、家を出て両親と別居している。そして、地道で安定した人生を送っているわけではない。
特に、この点に個人的にシンパシーを感じてしまった(笑)


父親に反発して実家に帰るのがおっくうなのだけれども、父親と散歩するときにはつい父を気遣って歩調を遅くしてしまう。
「イヤだなあ」と思いながらも「嫌い」になれない。
反って、父の死後、懐かしく思ってしまう。なんかよく分かる話で、読みながら照れくさくなる(笑)


題名にもなっている「歩いても 歩いても」は歌謡曲ブルーライト・ヨコハマ』の一節。
映画では、父親の浮気話との関連ででてきたが、小説では何かをほのめかしているばかりである。


読後、まだ健在の母に電話を入れたくなるような物語だ。
そのわけは、小説を読めば分かります。
ああ、何か映画のほうもまた観たくなってきた(笑)