「にんげん蚤の市」(文春文庫) 高峰秀子

高峰秀子「にんげん蚤の市」


今更、説明を要しないほどの日本映画界の大女優である。杉村春子とは異なりある年齢でぱったり女優業から足を洗い、文筆業に転じた。
意外といっては失礼だが、彼女の文才はなかなかのもの。ちなみに「わたしの渡世日記」では、日本エッセイスト・クラブ賞を受けている。


沢村貞子岸恵子の女優陣だけでなく、池部良殿山泰司といった男優も含めて、文才のある俳優は、何人もいる。演じる作業が、書くという作業をする際、どう影響するのかわからないが、共通する点は、そのわかりやすさにあるといえよう。


さて本書である。「オール読物」に掲載されたエッセイを中心にまとめたもの。「わたしの渡世日記」に比べると、小品の域を出ないが、高峰秀子自身を理解するのに最適な内容である。


特に[勲章の重さ]は、虚飾を嫌い率直に生きるすがすがしさが溢れる文章となっている。
紫綬褒章叙勲の話で、虎ノ門の集合場所での「おいしくもまずくもないフツーの幕の内弁当」を食し、さていよいよ宮中参内。「皇居に手洗いの用意はない」の言葉に唖然とし、と言った具合である。


「ありがたや、ありがたや」とばかりに自慢話をしないところが、高峰秀子の真骨頂なのだろう。