「銀幕の東京」(中公新書) 川本三郎

銀幕の東京―映画でよみがえる昭和 (中公新書)
以前、beatleさんがブログ(「銀幕の東京」の検索結果 - 旧・かぶとむし日記)で紹介されていた書籍である。

面白い。昔の日本映画や東京を舞台にした小説が好きか、または東京に住んでいたことのあるものなら、楽しめる読み物である。見方を変えると、(主に、昭和20年代−30年代の)東京を舞台にした映画や小説の接触度の濃淡に比例して、本書への面白さの度合いが違ってくる。


戦災から復興する途上の東京の情景を話題にしているので、個々の映画・小説に対する評価はほとんどされていない。(本書のテーマからずれるから当然だが)
あくまで、当時の銀座や浅草といった東京を代表する街の記述を楽しむ本だ。


個人的には「国鉄蒲田駅」の解説が興味を引いた。東京オリンピック前の汚い駅舎を思い出した。今行くと、「ショボイ!」と感じる駅ビルのデパートが、完成当初は一種の別世界であった。(特に、屋上は、それこそ「子どもの楽園」状態であった)


一つ不満をぶつけるなら、以下のところだ。「上野」(pp.191-192)の記述で小津作品「東京暮色」のラストシーンを上野駅のホームとしているが、間違いである。次女(有馬稲子)を失った父親(笠智衆)が自宅からとぼとぼと会社に向かう後ろ姿がラストシーンのはずだ。加えて、物語の設定にも間違いがある。


本当に「東京暮色」を観たの?と訊きたくなる記述である。ボクの知識ではこの程度のことしかわからなかったが、本書で扱っている映画・小説にもっと親しんでいる方ならもっとほころびが目に付くのか?と疑念を持ってしまった。
本書あとがきに「サントリー文化財団より研究助成金をいただいた。」(p.268)とあるだけに、こんな初歩的なミスはどうかなあ、と思ってしまう。(学術の世界なら、研究者としての信用を損ねるんだけど…)

それでも、半世紀ほど前の「東京」を知るのに参考となる書籍である。