「雨にぬれても」(幻冬社アウトロー文庫)上原隆

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「友がみな我よりえらく見える日は」「喜びは悲しみのあとに」に続いての第3作目。期待に違わず、著名人も無名人も同じ目線から描いている。ほのぼのとした心の温まる話から、ちょっと切なくなる話まで収録。
書く対象に対しては常に同じスタンスではあるが、長調短調の曲を織り交ぜたショパンの「前奏曲集」のような感じがする作品である。


「夢」を追ったり、持つことは素敵なことだ。TVのドキュメンタリー番組では、一場面を切り取り、メデタシ&ハッピーエンドなることが多々ある。しかし、その後はどうなっているのか? 視聴者も日常の中で忘れていってしまう。
「テレビドキュメンタリーのその後」(pp.136-142)では、そんな疑問に答えてくれる。零細な「カメラ屋」さんの話である。大手チェーン店との競合、フイルムの需要は減りデジカメの時代に、と取り巻く状況はとても厳しいものだが、それを淡々と乾いた筆で描き出す。


また、ピーター・バラカン氏とのやりとりで

私の質問はおよそ40分で終わった、最後に、私は書いた原稿を読んでもらえますかときいた。
「いつもは原稿を読むことにしてるんですけど、今回は信頼できる気がしたのでおまかせします」そういうとバラカンさんはおじぎをした。私もお礼をいっておじぎをした。(p.252)

ここから、なんとなく著者の取材相手に対する姿勢がわかる。


著者は、過去の作品同様に、対象に感情移入することもなく、かといって、冷たく突き放すわけでもなく、本当に誠実に向かっている。そんな感想を今回も抱いた。