「リスボアを見た女」(新潮文庫)阿刀田高
16世紀に我が国に鉄砲が伝来されたことは中学生の教科書にも載っている。教科書的には、「1543年、漂着したポルトガル人により鉄砲伝来」となっている。
【『真説 鉄砲伝来』 (平凡社新書) 宇田川 武久】
では、学術的に上記の説に対して疑義を呈している。まあ、倭寇の活動時期は既に14世紀には始まっているので、1543年以前にマカオ−ポルトガルの活動基地の一つ−方面から伝来されたとしても驚くには当たらない。
それはそれとして、本書は鉄砲伝来に関連する伝説を主人公の高校時代の「淡い初恋」に重ねて幻想的に描いている。
著者の着想・知識の豊かさと読ませる文章術で一気に通読してしまう。でも作品の完成度という点では、同じ著者の他の作品に一歩譲る。乏しい史料から、想像をふくらませて描いているものの表題の『リスボアをみた女』の具体像がどうもカーテン越しにしか見えないもどかしさを感じる。
歴史を資料(史料)を通して見るばかりだと、無味乾燥な学術論文になってしまう。それはそれで意味のあることなのだが、どうもそれだけだとつまらない。史実に則りながら、想像をふくらませて人間ドラマを描く。それが、歴史小説の醍醐味だと思っている。