「知られざる渥美清」(廣済堂文庫)大下英治

知られざる渥美清 (広済堂文庫)
500ページ以上の長編ではあったが、一気に読めた。全4章。渥美清フランス座以降の役者人生とその交友記を中心にドキュメント・ノベル形式で書かれている。


渥美清のスクリーンから伺いしれない素顔を数々の関係者の証言を通して描いている。しかし、それすら「田所康雄」本人ではなく「渥美清」を演じていたのかもしれない。大体、常に家族と共にいたわけでもなく、一人で代官山のアパートにいることが多かったようだ。読めば読むほど、彼の本当の素顔が見えてこないのだ。というか、素顔をいくつも持っていたのかもしれない。


個人的には、NHKで「種田山頭火」をドラマ化するさい−渥美清が最後の最後で役を降りたエピソードは既にTV番組(NHK製作「渥美清の肖像・知られざる役者人生」)で知ってはいたが−いかなる理由から受けた仕事を断ったのか、その真意を知りたいと思ったのだが…。


とにかく、類い希な役者であることだけが、明らかになってくるのである。でも、知れば知るほど、何が実像で何が虚像だったのかが見えなくなってくる、そんな思いも消えない。
先年放映されたNHK渥美清の肖像・知られざる役者人生」をもう一度観たくなってきた。