『ま・く・ら』(講談社文庫)柳家小三治

ま・く・ら (講談社文庫)

落語にはとんと不案内だが、この師匠には昔から親近感を覚えている。高校時代、ラジオのクラシック音楽番組にゲスト出演して、「あたしは、シャルル・ミュンシュが好きです」と言って、ブラームスの1番(ミュンシュが最晩年にパリ管を振ったレコード)をリクエストしていたような記憶が(違うかもしれないが…)ある。この言葉で、いっぺんに好きになった。


当時('70年代中頃)は、ミュンシュ、バルビローリ、セル、クレンペラー亡き後、小沢やマゼールやまだ若手から中堅になるかどうか。  ヨッフム、地味。ハイティンク堅苦しいムラヴィンスキー、冷たい。サバリッシュ、教科書的。こんな言葉を『レコード芸術』誌で目にした記憶がある。 
そんで、絶賛されるのが、ベームカラヤンであった、ような。勿論、他にも有能な指揮者はたくさんいましたが、あくまで個人的な印象です。(不快感を感じた方には、ゴメンナサイです。)


バイクやオーディオやクラシック音楽と、落語以外にも好奇心旺盛の多趣味な人である。であるから、「まくら」も非常におもしろい。本編の落語を聞かないで、「まくら」のほうをおもしろいと言っているのだから、師匠に聞かれたら怒られそうだが…。
「玉子かけ御飯」「駐車場物語」は、まるで新作のようだし、「日本の塩はまずい!」「ミツバチの話」は、一種の講演だ。だいたいがおもしろくて、笑ったり感心したりしてあっという間に読破してしまった。そして、気に入った箇所をしつこく読み返している。

例えば、「彦六師匠と怪談噺」で

 噺家でうちなんか建つわけないんですよ、これは。(笑)
 そりゃ、噺家という肩書で、うちの大きなのを建てているなんてのもいないわけじゃありませんがね。建ったときはそりゃ、まあ、本人もうれしいでしょうし周りもうれしいでしょうけども、人気だとか、一つの流行ってのは続いていくもんじゃありませんから、あと税金払うだけでも大変だろうななんて、ケチな先輩としてはいろいろと思うわけでございますがね。(p.163)

ここのくだり、思わず「ニンマリ」。耳の痛い落語家もいるのでは…。このまくらは'85年のものなので、ここ最近ワイドショーを騒がせた御曹司のことではありませんが(笑)


こんなにおもしろいと、無味乾燥な学術論文など読めなくなってくる。(書庫には、その無味乾燥が一杯あるのだが…)やばいやばいよ、これは(まあ、自業自得か)