『歩いても 歩いても』'08 是枝裕和/監督・原作・脚本・編集  

歩いても歩いても [DVD]


出演:阿部寛夏川結衣 、YOU 、 樹木希林原田芳雄
2008年、第82回キネマ旬報ベスト・テン5位(1位は『おくりびと』)
樹木希林が、助演女優賞を獲得。個人的には、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』よりも、こちらのほうがよかったと思う。


公式サイトは、こちらです。


話題性、着想の斬新さでは『おくりびと』に譲る。
しかし、この作品の優れている点は、家族をきれいごとだけでなく、リアルに丁寧に描いている点だ。
その意味では、小津の『東京物語』、成瀬の『娘・妻・母』の系譜を受け継ぐ良質の作品、と個人的には思っている。


ある夏の終わり。横山良多は妻・ゆかりと息子・あつしを連れて実家を訪れた。開業医だった父と昔からそりの合わない良多は現在失業中ということもあり、気の重い帰郷だ。姉・ちなみの一家も来て、楽しく語らいながら、母は料理の準備に余念がない。その一方で、相変わらず家長としての威厳にこだわる父。今日は、15年前に不慮の事故で亡くなった長男の命日なのだ…。

ワンダフルライフ』や『誰も知らない』など、国内外で高い評価を受けている是枝裕和監督の新作は、成長して巣立った子供たちと老夫婦の、ある一日をたどるホームドラマ。人生の黄昏期を迎えた老夫婦に原田芳雄樹木希林、息子夫婦に阿部寛夏川結衣、長女にYOUと、観終わればその見事な役者のアンサンブルに舌を巻くはず。料理する台所の様子、家族そろっての食卓の風景、墓参りへ向かう歩道――そんな何気ない場面で交わされる会話のひとつひとつから、お互いの微妙な関係が判明していくところに、脚本の素晴らしさがある。子を持つ親、親を持つ子なら誰もが自分自身と重ね合わさずにはいられない物語だ。
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単純に「いい人」の集まりでなく、リアルに人間を等身大で描いている。
そりが合わないけれど憎み合っているわけではない父と息子。
表面的には親しくしているが、息子が子連れ未亡人と結婚したことに、わだかまりを捨てきれない母。


老夫婦も一見、大過なく過ごしてきたようでいて、その実、夫の浮気に苦しんだ時期もある。


題名の『歩いても 歩いても』は、夫が浮気していた時期に流行った曲の歌詞。
妻は、そのレコードを隠し持って、独りでひっそり聴いていたようだ。


それを数十年後に夫・息子・嫁の前で明かす。
一瞬の沈黙。
罵倒するでもなく、睨むでもなく、淡々としている妻。
真実を聞いて苦虫を噛み潰したような顔の夫。
その場に居たたまれないような息子夫婦。


実家で一夜を過ごし、老夫婦に見送られてバスに乗る息子夫婦。
母は、「次は、お正月だね。」と楽しげに言う。
バスが動き出すと、息子夫妻は「今回来たから、お正月はもういいね。」と言い交わす。


平凡で、リアル、かつ、ある意味、残酷な言葉が交わされる。


ただ、ラスト・シーンで、老夫婦が亡くなり、その墓参りをする息子家族の会話の中で、亡き人を偲ぶような言葉。
単純ではない親子関係も時と共に、汚濁は沈殿して、純化した想い出が胸を去来する。
そんな、印象を受けるラストであった。


数年後に、また鑑賞して新たな発見をしたい作品であった。

−追記−
tongyouさんのご指摘の通り、映画のラスト近くのバス停のシーンは、ボクの記憶違いでした(苦笑)
「正月」といったのは、原田芳雄演じる老父でした。
ここに訂正いたします。tougyouさん、ご指摘ありがとうございます。